ぜんぶ釘のせいだ_二稿

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 玄関を飛び出した永治の目の前に飛び込んだのは自転車ごと転がっている人。カラカラと回るタイヤからは『めがまわるー』という釘の声。今日は自転車のパンクによく遭遇する日だ。  自転車を押しながら去る人を見送りながら、永治は自分の置かれている現状を噛み砕くのに必死だ。  自分が作った釘以外の声も、聞こえるようになっていると。  永治の右手には一般的な洋釘、左手にはお手製の和釘。 『外は寒いねぇ』 『冷えますね』  和釘と洋釘はのんきに世間話をしている。 『キミ、チセさんの声にそっくりだ』 『チセさん?』 『ね、えいじ君もそう思ったから、外に出たんでしょ』  これが釘の声なら腹立つ釘だ。これが自分の内心ならどうだろうか。  永治は観念してスマートフォンを取り出した。「迎えに行く」とメッセージを送ると「来なくていい」と即座に帰ってきた。 『女の子がひとりで夜なんてあぶないよー!』  和釘だけではない。あたりの釘が騒ぎだす。さわさわと街中の釘が騒いでいるように思える。  握りっぱなしのスマートフォンに「不審者注意」のメールが届いた。それが永治の不安を煽る。 『犯罪に巻き込まれてるかも!?』  和釘の声に、今だけは永治も同意した。走れば数分の工房に忍び込み、武器の調達を試みる。 『どうしたのー?』     
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