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無邪気な釘たちに返事は返さず、乱暴に釘を掴む。指の間に挟んでみて、メリケンサックの代わりになりそうか確認する。
『それじゃあ心もとないと思いませんか?』
釘たち側から提案がひとつ。いいから話せと永治が促す。
『もっとカッケーモノになれるぞ俺ら!』
色めきたつ釘たちの声に永治は従う。
『釘バットだよ!!』
釘による誘惑か、深層心理の願望か。かくしてあっという間にお手製の釘バットが完成した。バットからは釘たちの歓声。ポーズをとると、声は一層大きくなった。
『さあ、チセさんを迎えに行こう!』
永治の足は見覚えのある住宅街へ向かう。姉のいる場所は、釘たちの囁きをたどればすぐに検討がついた。
『久しぶりー』
『ちょっと痩せた?』
驚くほど多くの釘の声。深夜の閑静な住宅街は、もはや昼間の雑踏に近しい。
『お姉さんキレイになったね』
『最近きみたち一家を見ないけど、引っ越した?』
住宅街の端に目的地はある。実家のあった空き地。火事から半年経つ。今はもう何もない場所。その前に姉がうずくまっていた。
そして、その傍らにはひとりの男!
永治が釘バット構えて声をかけると、男はすぐに逃げ出した。
「あの人、心配して声かけてくれただけなのに」
「不審者情報があるって言っただろ」
「永治くんの方が不審者だよ……」
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