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永治の頭が狂っているのでなければ。
『ほあーおんなじカタチがいっぱい』
手元の釘から声が聞こえる。
『同じじゃねえ!』
『大量生産工業製品と一緒にするな!』
こっちの声は釘入れの中から。
『和釘の誇りをいだきなさい』
『くぎってなあに?』
つまり永治がつくった和釘が喋っている。
『わあこの子、自分のことが分かってないみたい』
釘の自我など永治にはどうでもよい。
『あの人が、私たちをつくってくれた人よ』
釘たちがこちらを見上げているように感じた。
『じゃあ、おとうさん?』
父に成ったつもりもない!
……ただの釘職人である宗方永治は、『釘の声が聞こえる』という怪奇現象に見舞われていた。
人間以外の声が聞こえること自体は、ホラー映画やゲームの定石だと永治でも知っている。
でもだからって、聞こえるのが釘の声とは。「職業病」とカテゴライズするにも突飛な現象だ。
「俺はそういう力に目覚めてしまったのか?」
口に出すと腹の底からゾワゾワした。
とうに成人した身の上なのでファンタスティックなことには少々、いやかなり抵抗がある。
そしてしかめっ面で独り言という状況もイヤになる。
今は缶コーヒー片手に休憩中だ。
『ボクたちこれからなんになるの?』
『家じゃない?』
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