ぜんぶ釘のせいだ_二稿

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 永治の頭が狂っているのでなければ。 『ほあーおんなじカタチがいっぱい』  手元の釘から声が聞こえる。 『同じじゃねえ!』 『大量生産工業製品と一緒にするな!』  こっちの声は釘入れの中から。 『和釘の誇りをいだきなさい』 『くぎってなあに?』 つまり永治がつくった和釘が喋っている。 『わあこの子、自分のことが分かってないみたい』  釘の自我など永治にはどうでもよい。 『あの人が、私たちをつくってくれた人よ』  釘たちがこちらを見上げているように感じた。 『じゃあ、おとうさん?』  父に成ったつもりもない!  ……ただの釘職人である宗方永治は、『釘の声が聞こえる』という怪奇現象に見舞われていた。  人間以外の声が聞こえること自体は、ホラー映画やゲームの定石だと永治でも知っている。  でもだからって、聞こえるのが釘の声とは。「職業病」とカテゴライズするにも突飛な現象だ。 「俺はそういう力に目覚めてしまったのか?」  口に出すと腹の底からゾワゾワした。 とうに成人した身の上なのでファンタスティックなことには少々、いやかなり抵抗がある。 そしてしかめっ面で独り言という状況もイヤになる。 今は缶コーヒー片手に休憩中だ。 『ボクたちこれからなんになるの?』 『家じゃない?』     
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