ぜんぶ釘のせいだ_二稿

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『もっとトガったのがいいぜ』 『釘だけにー?』  ウルセー、と永治は心の中で毒づいた。 離れた位置からでも、釘の雑談が聞こえるのにはまいってしまう。 自分の聴力がいいのか、釘の声が大きいのか、それとも「釘の声が聞こえる」という能力の下では距離なんて関係ないのか。 『私は床をとめる釘になるつもり』 『床! 目標が低い! 時代は屋根!』 『和釘を使うのは大半が伝統建築だ、どの場所になっても誇りを持ちたまえ』  この奇妙な釘たちの声は、叔父にも叔母にも聞こえないようだ。 釘の声が聞こえる力なんていうふざけた概念をかなぐり捨てるなら、この声が聞こえる原因はただひとつ。 ノイローゼだ。 『未来を狭める必要はないよ。僕らにもいろんな道が待っているんだ』 『たとえば?』 『えーっと、釘バットとか』 『えっ最高じゃん!』 『釘リスペクト武器!』  釘たちはおっかない会話を繰り広げはじめる。 今聞こえているものが本当に「釘自身の声」ならば、危険思想を持つ存在を自らの手で生み出したことになる。 そうなれば永治は次に「自分の才能が怖い」と嘆かなければならない。 そしてこの声がノイローゼ由来なら、己が普段「そう思っている」ということになる。     
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