ぜんぶ釘のせいだ_二稿

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釘バットだけは、釘職人として認めがたいと思っていたのに、深層心理では憧れていた……それはあまりにもショックが大きい。 つまり声が聞こえる原因は、どちらに転んでも最悪だ。  実を言えばかねてより、永治の耳は小さな音をとらえていた。 鉄を打つ音にまぎれるソレを、『声』だと認識することはなかった。  会話がハッキリと認識できるようになったのは、実家が火事に見舞われて、両親が亡くなってから。  それは宗方家にとって大きすぎる損失であった。 腕のよい職人の父、よく気の利く支え役であった母。 和釘制作の家業を親族(といってもそう人数も多くないのは現状を見て察せるだろう)で率いていかなければならない。 近年にわかに伝統工芸ブームがおこり、建築だけでなく、例えばちょっとオシャレな雑貨気取りとして和釘が用いられたりと、需要は増している中の出来事だ。 親として、そして職人として尊敬していた両親の他界は、じわじわと若い職人を追い詰めていく。さらには自分の生家が燃え落ちたというのに火を扱う立場。 病んでもしょうがないと、叔父なら慰めてくれるだろうか? でも「釘の声が聞こえる」なんて相談されたら? 「……病院、行こうか」     
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