ぜんぶ釘のせいだ_二稿

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 永治は叔父の口真似で結論を吐く。だが、こんなくだらないことで仕事に穴を開けるのも心苦しい。コーヒーを飲み干すと頬を叩いて気合を入れなおした。 「心頭滅却、集中すれば声なんて気にならん」 『あ~踏まないでー』 「声なんて……」 『あ~タイヤさんごめんなさーい!』  声は、やっぱり気にしてしまう。しかも普段のくだらない雑談とは違う、釘が謝罪するとはどういうことか。 ノイローゼここに極まれりと声のもとへ走れば、遠目に叔母が自転車で工房から出ていく様子が見えた。 「叔母さん、待って!」 「あら」  キキッと音を立て自転車はブレーキをかける。 「タイヤ」  永治はそれだけ言うとタイヤを確認しはじめる。案の定、前輪がパンクしていた。 「あらぁ、なんか変だと思ってたのよ。でも永ちゃんよく分かったわね」 「声が……」  聞こえたなんて言ったら、叔母さんだって病院を勧めてくれるだろう。 「……音が、聞こえたから」 「まあ」  タイヤがパンクする音? 耳がいいのねえ、なんて叔母が笑ってくれるのは、普段の永治が冗談なぞ一切言わないマジメな男だと認識されているから。  かくして「タイヤ交換」の予定が追加された叔母を見送り、永治は声のもとへと赴いた。 「お前のせいか」  拾いあげたのは、先端が少しひしゃげた和釘だ。 『あやまったよ!』  会話が成立してしまった。     
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