ぜんぶ釘のせいだ_二稿

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なおこの釘は悪意を持ってパンクさせたわけではなく、どちらかというと叔母さんが轢いたことがパンクの原因である。謝罪をする必要もないのではと永治は考えたが口には出さない。そして釘を慰める趣味もない。 『あんなとこにいたー!』『もどってこーい!』と釘たちが呼ぶ声も聞こえる。鉄の塊のくせに仲間意識が思いのほか高い。 「なぜこんなとこに落ちているんだ」 『おじさまのポケットから落ちたんだよ』  ひしゃげているのは自転車に轢かれたからでなく、もとからなのだろう。つまりは不良品だ。 それなら叔父が他の釘から隔離しようとしたのも理解はできる。 叔父にポケットの穴の有無を確認しようと思ったが、また「どうしてわかったの」と聞かれるのも困るので黙っておくことに決めた。 *  仕事を終えて家路につく。 永治は実家が焼け落ちてからしばらくは安アパートに住んでいた。しかし『釘の声ノイローゼ』が発症しはじめた頃、「釘を一切つかわない」建築方式がウリの此処に引っ越した。 ファミリー向けの物件だが、永治が気にすることはない。重視すべきは「そこに釘が無い」ということ。自分でつくった釘以外の声は聞こえやしないが、心の安寧のために必要な投資だ。 「おかえりなさい!」  玄関扉を開くと同時に声。ゆるいウェーブの髪をまとめた可憐な女性が永治を出迎える。 「今日もお仕事おつかれさま!」 「いい身分だな……」     
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