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智世は見目が良い。母に似て気も利く。なんでそんな彼女が、旦那の家を出ていったのか。
どうせ帰ってくるなら、永治のノイローゼが悪化する前であれば良かったのに。きょうだいで支え合えば、なんとかなったのかもしれないのに。
思い切りのよい所がある姉は行動が極端で、そこは父に似たのかもしれない。
『ああ~ここどこ~』
……物思いに耽っていると、思考が中断された。永治の身体がこわばる。
『たすけて~』
釘の声が聞こえる。
ここは工房ではないのに、どうして。
風呂場の鏡にうつった永治の顔は青ざめている。ノイローゼが幻覚の釘をつくりだしている?
永治は己の頬を叩く。正気を保て。冷静に考える。そうだ、和釘を持ち帰ってしまったのかもしれない。そうじゃなければ声が聞こえる理由はない。
『ああっこんなところにいっちゃうと~だめ~!』
「どこにいる!?」
自分の家の危機を感じて永治は風呂から飛び出した。とりあえずタオルで身体をぬぐい声を聞こうとする。
「返事をしろ!」
『ここどこ~わかんない~!』
「ちょっと、えいじ君どうしたの」
エプロン姿の姉が顔を出し「パンツぐらい履いて!」と叱ってきた。
「勝手に入ってきたのはそっちだ!」
「えいじ君のことを思って言ってるのに!」
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