ぜんぶ釘のせいだ_二稿

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ぜんぶ釘のせいだ_二稿

『あつかったね』  誰かが言う。 「まだあつくなるぞ」  ぶっきらぼうに男は呟く。  ……和釘のつくりかたを知っているか。鉄の角材を火床(ほど)に入れ叩く。頭部のカタチが成るまで叩く。それが終わればまた加熱。そして今度は先端を尖らせるために叩く。叩く。叩く。 『いたぁい』  声が聞こえる。それにうんざりした様子で「今だけだ」と男は返す。  宗方永治(むなかた・えいじ)は若い和釘職人だ。叔父・叔母と共に小さな工房で働いている。 「どうした永治?」  つぶやきに反応した叔父が声をかけてくれる。 「叔父さんには聞こえたか?」 「ん? 今だけだから~とか言ってたやつ?」  聞いていたよと叔父は頷くも、永治は違うと首を振る。 「『痛い』とは聞いていないか?」 「なんだい、永治どっか怪我したのか」 「別に怪我はしていない」  永治は視線を落として黙り込む。そうなれば叔父も作業に戻るしかない。 「やっぱり永ちゃん、元気ないわね」 「まあ、立ち直るには時間かかるだろうよ」  工房の隅で話す叔父と叔母の声なんて永治は気にしない。もっと気にすべき声が聞こえるから。 『わーい新入り!』  その声は釘から聞こえる。 『その生誕を祝おう』     
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