1人が本棚に入れています
本棚に追加
そして自分は危うく、誤った答えを出しそうになった。
しかし、アカシック・レコードの司書が『処分』したいのは、その知識に関する記憶だけだ。
恐らく人外の力を持った彼が、わざわざ、殺人という陰惨なやり方をする理由は無かった。
帰りがけ、忘れずに花屋に寄った。
帰宅して、花束を妻に渡す。
「覚えていてくれたのね」
花瓶に水を注ぐ妻に、十勝はふと、依然解けない疑問を口にした。
「なあ…」
「何?」
「例えば、一度見たものは絶対忘れない、という便利な能力を持っていたとする。
それで、この世界の全ての知識が詰まった、何でもありの図書館があったとして、」
「なにそれ」
いいから、と十勝は続ける。
「もし、自分がそうで、そういう場所に行けたら、どんな本を選ぶんだろうな」
そうねえ、と、妻は花を活けながら答える。
「多分、」
「多分?」
「その便利な能力を、なくす方法が載ってる本を、探すんじゃないかしら」
一瞬、意味が分からなかったが、
「そうか…。
そうだったのかも、しれないな」
妙に納得する、自分がいた。
最初のコメントを投稿しよう!