アカシック・レコード

1/5
前へ
/19ページ
次へ

アカシック・レコード

稲敷という人物は、この研究室に所属する大学院生だった。 研究室の学生たちに連絡を取ってもらい、その日のうちに大学構内のカフェテリアで会うことになった。 まるで、ショッピングモールにでも来たのではないかと錯覚するような、綺麗で、解放された空間を歩き、稲敷らしき人物を探す。 相手は白衣を着ているらしいが、医学部や理学部もあるこの大学では、白衣を着ている人間が珍しくなく、困り果てた。 反対に、スーツ姿の、やけに姿勢が良い中年男は浮いているらしい。 稲敷が自分から声をかけてくれて、十勝は内心ほっとした。 「刑事さん!」 「稲敷さん、ですね。ご連絡した十勝です」 稲敷に促され、カフェテリアで頼んだコーヒーを片手に、着席する。 「綺麗な大学ですね。自分が学生だった頃は、校舎というものは、もっと汚い建物でしたよ」 「最近は、カフェやジムのある大学も多いですよ」 そんな雑談から始まり、場が和んだあたりで、本題に入った。 「稲敷さん、昨夜の、御津さんからの電話について伺いたいのですが」 ああ、と、稲敷は曇った表情を浮かべた。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加