1人が本棚に入れています
本棚に追加
「ちょうど帰ろうと思った時に電話が鳴ったので、立っていた自分が出ました。
ノイズが酷くて… 水の流れる音と、電車の走る音が混ざっていました。
もしかしたら、他にも話していたのかもしれませんが、聞き取れた御津さんの声は一言だけです。
『一冊の本のせいで』
そう言った気がします」
「一冊の本? それはなんですか?」
分かりません、と稲敷は首を振った。
そのキーワードを手帳に書き込んでみたが、いまいちしっくり来なかった。
「他に、何か思い当たることはないですか? なんでも良いです」
稲敷は、腕を組んで考え込んだ。
「御津さんと本、と言えば、一応二つあるんですが」
「ほう、何ですか?」
「一つは、板垣教授が今度出版する、本の編纂を手伝っていたことです。でも、トラブルはなかったと思いますけど。教授は御津さんを、信頼していましたし」
「なるほど。もう一つは?」
うーん、と稲敷は、再び腕を組んで、
「これは、さすがに関係がないような… 非科学的というか…」
「何でもいいです。話してください」
じゃあ、と稲敷が口を開く。
最初のコメントを投稿しよう!