アカシック・レコード

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「ちょうど帰ろうと思った時に電話が鳴ったので、立っていた自分が出ました。 ノイズが酷くて… 水の流れる音と、電車の走る音が混ざっていました。 もしかしたら、他にも話していたのかもしれませんが、聞き取れた御津さんの声は一言だけです。 『一冊の本のせいで』 そう言った気がします」 「一冊の本? それはなんですか?」 分かりません、と稲敷は首を振った。 そのキーワードを手帳に書き込んでみたが、いまいちしっくり来なかった。 「他に、何か思い当たることはないですか? なんでも良いです」 稲敷は、腕を組んで考え込んだ。 「御津さんと本、と言えば、一応二つあるんですが」 「ほう、何ですか?」 「一つは、板垣教授が今度出版する、本の編纂(へんさん)を手伝っていたことです。でも、トラブルはなかったと思いますけど。教授は御津さんを、信頼していましたし」 「なるほど。もう一つは?」 うーん、と稲敷は、再び腕を組んで、 「これは、さすがに関係がないような… 非科学的というか…」 「何でもいいです。話してください」 じゃあ、と稲敷が口を開く。
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