もう天使ではいられない 1 モンシェリ

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カランカラン、よくあるスナックのドアカウベル。ちょっと間が空いて 「いらっしゃ~い」 ママの声。店のママで、私のママ。 駅から5分の路地裏スナック。今時流行らないレトロな店内、名前はモンシェリ。 「あっちのモンシェリも行こや、ママ」 なんて冗談を言う常連のオッチャンに 「顔見知り過ぎやとラブホ行っても  盛り上がらへんわ」 ママが大声で返し。 ここは大阪ド真ん中。 「品のエエとこ(良い所)やない」 と、住んでる人間のお墨付き。 そうかも・・・芦屋の友達の所へお呼ばれして行ったら、 その子のママがお姑さんに「お母様」なんて言うてた。まあ、家からして違う。あっちは文字どおり邸宅。こっちは飲み屋街の下飲み屋の上住居。環境バツグン・・・ 「せや(そうだ)、ママ、理子ちゃん、  東大に受かったんやて!」 「そやねん!早耳やな、ありがとー!  飲んで!飲んで!」 今夜のママは大盤振る舞い。私が現役東大合格したから。 「エラいなあ!エラい!!!  血のションベン(小便)出るくらい  勉強せな、入れん学校やで」 誉め方まで下品なこの町なのに、ママは教育ママやった。別に勉強は嫌いやないけど小学校から遠い私立に通うのは至難の技。ついて回るママも凄いけど。シングルでここまで頑張れるのは大したもんやと思う。パパは最初から居てない。ママに「なんで?なんで居てないの?」と聞いたけど、3年前まで隣で居酒屋やってたお祖父ちゃんにも聞いたけど「さあ、なんでやろなあ?お菓子の  オマケに入ってなかったなあ」 なんてオフザケしか返ってこないから聞くのもやめた。 「こんばんはー!美那ちゃん!来たでー、  おめでとうさん!」 「イク姉ちゃん、来てくれたん?!」 「十年ぶりやなあ」 イクさんて人は十年くらい前まで近所で似たような店のママやったけど息子さんに呼ばれて今は長野で息子さんのイタ飯屋を手伝ってるらしい。ママはお祖母ちゃんが死んでからこの人によく相談事をしてきた。 挨拶せんとママに怒られるから店へ降りる。 「こんばんは、お久しぶりです」 「ほんま、久しぶり、」 イクさんがこっちを見て、いや凝視。 「いややわ、あんまりおっきなってた (大人になった)からビックリしたわ」 違うなあ、たぶん小顔のモデル顔のママとは真逆の私に驚いたんやろなあ、思いながら 「アンナちゃんの赤ちゃんを見てくる。  ゆっくりしていって下さい」
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