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消えなくて、良かった。
『家、帰りづらいんだったら…うち、来る?』
雪のよう。
溶けてなくなってしまいたかった俺は、今。
その人に、ずっとついて行きたいと、思ってる。
大学の帰り、またあの公園に来て、
滑り台に、
座ってみた。
膝を抱く腕はもう、
あの人に抱き返す以外を、求めてなかった。
雪は降らない。もう春だし。けど、
あの人と見る雪は、きっと…あったかいものだろうな。今年の冬を、楽しみにして。
寝っ転がって、目を閉じた。
もしあの日、ここへ来てなかった自分を考えた。
何となく生きていたんだろうな。周りに言われて、就職や結婚をして。
心が……溶けてなくなったかのような人生。
器だけ残った、ただのがらんどう。
痛みなど、感じる事もなく。
ただ死ぬまで動いてた。
人形のように。
今は……痛い。
寿彦さんを想うだけで、胸が…ぎゅっとして…それでいて、あったかいんだ。
……あったかいんだ……
頬が、次第に温かくなるのを感じて、目を覚ます。
「あっ」
目を開いても暗いので、怖くなった。けどすぐに、俺はあのまま滑り台で寝てしまって、もう日も落ちていて、温かくなったのはこの、手のひらのおかげで、
「千樫」
それが、寿彦さんのものだって分かったから……安心した。
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