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手持ち無沙汰になったので、部屋の境に立って廊下側の方を見回していた。
向かいの壁に見える凝った装飾に目が留まった。
開口部から廊下の壁に向かって右斜向かいに、奥に向かって凹んだ形に空間が開けており、空間の奥の壁には、階段の横を覆っているらしい黒茶の板が左上方向に向かって延びているのが見えた。
地図に寄ればこれは講堂上階に直接抜けるための階段だったはずだ。
階段の横を手すりの高さまで覆った重厚な木の板には、波のあわいを泳ぐ金魚が彫り込まれている。
見事な意匠だった。
浅く彫られた波と泡の中でひらひら大きな黒い尾びれを広げている。
うろこの一枚一枚が、開口部から届く弱い外光に鈍く光った。
ヒレや背のうねりに沿って力強い稜線が彫られており、それが生きているような筋肉の動きを感じさせる。
美しいが、特性を強調しすぎているためどこか戯画的なグロテスクさもあった。
黒一色の中で青い瀬戸物の目が印象的だ。
金魚なのだが、薄暗い校舎の奥まった一角にある魚のレリーフは深海魚のようにも見えた。
見上げていると、突然魚の目がきらりと光った。
振り返ると、生徒会長が俺のすぐ後ろで懐中電灯の明かりを金魚に投げ、しげしげ見つめていた。
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