第33話:金魚階段

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 確かに、見事な意匠だ。  自分は絵画や彫刻を見るのが結構好きだが、生徒会長もこういう物が好きなのだろうか。  そうして、しばらく黙って美術鑑賞した後、生徒会長は懐中電灯を渡してきた。 「遅えな……俺も行ってくるわ」  そうして会長も居なくなった。   窓の外に目をやっていると、無線の着信音が鳴った。 「古川より、恐川委員長へ。  田中が怪我をしました。  地学資料室の床材が腐っていたらしく、踏み抜いて怪我をしてしまいました。  傷は大した事が無いように見えますが、どうも気分が優れないようで寝かせています。  見回りは終わっていません。どうぞ」 「恐川より古川へ。  わかった、本部に連絡する。  今は他の二人がトイレに行っているが、戻って来たらそちらに様子を見に行く。  そこから動かないでくれ。どうぞ」 「古川より、恐川委員長へ。わかりました。待機しています」  田中の怪我の件を本部に報告し、通話のスイッチを切る。  自分の声が消えて、校舎はことさら静かに感じられた。  微かな雨風の音以外は何も聞こえない。  来た道を振り返ると、暗い廊下の上にカーテンの開いた窓から投げられる明りがところどころに落ちていて、それがポツポツと遠くまで続いて見えた。
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