l meet you

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 それからというもの、私は廣人くんのお店によく行くようになった。単純に落ち込んだ時甘いものを食べると元気になれるから。行くのがいつも閉店時間に近いからか、大抵客はおらず廣人くんがオススメのケーキを出してくれた。 「それ恋じゃない?」  元カレのいたざくろは止めて、私たちは新しい居酒屋で飲んでいた。ありさに廣人くんの話をすると、嬉しそうにそう言われた。 「ない、ない。甘いものに癒されるなーっていうだけだよ」 「でもさ、葵が落ち込んでる姿、それも泣いてる所見せられるってすごいことじゃない?」 「それは……まあ、そうだけど。あの時はそんなこと考えてもいなかったと言うか」  それでも私が人前で泣くことは、ありさ以外の前ではなかったことだ。たまたまとはいえ、泣いてる所を見られて、それからも落ち込んだ時に行くって今までならありえない。 「たぶん初めに涙を見られてるから、なんかもう素を出せるのかな」  きっと廣人くんの中での私のイメージは泣いてる、泣き虫だろうな。だから落ち込んでいてもイメージと違うって言われる心配がない。だから私は安心して素のままで居られるんだ。 「ふーん? なんか私の予感は違うんだけどなー。」 「何? 予感って」 「今は言わずにおく。当たった時に話すよ。その方が楽しいから」 「気になるなー。」  そんなことを話しながら、私たちの新しい行きつけ先が決まった。店の名前は『花のや』。もう元カレに会いたくないから、ざくろに行くとこの前のことを思い出してしまうから。
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