14人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
ケーキのおかげか私はずいぶん前向きに仕事が出来ていた。手帳の中身の機能についても、いろいろと案が浮かびそれを企画書にまとめていた。
「仕事が楽しいと気分が違うな」
あ、たまには落ち込んでない時にケーキを食べようかな。嬉しいことがあった時のご褒美みたいな感じで。
「いらっしゃいませ」
あれ……廣人くんがいない。
いつもの閉店近く、店内を見渡しても廣人の姿はなく、居たのは五十歳前後くらいだろうか、白髪まじりの髪をした男性が立っていた。
「あの……廣人くんは?」
「廣人の友達ですか?」
「いえ、あの知り合いです」
「そうですか。廣人はちょっと風邪をひきまして、休みを取っています」
「え? 大丈夫なんですか?」
「大したことはないようです。ただ仕事が仕事なので、休ませているだけです」
「そうだったんですか……。あ、えっと……モンブラン一つ下さい」
「モンブランですね。少しお待ちください」
葵はケーキを手にすると、店を出た。考えるのは会えなかった廣人のことだった。
大丈夫かな……。風邪ひいたって、廣人くんちゃんとご飯とか食べれてるのかな。独り暮らしだと……。
思わず葵の足が止まる。
私、廣人くんの連絡先知らない。連絡先どころか独り暮らしなのか、どこに住んでいるのかも、何も知らないんだ。あんなにいろんな話を店でしてきたのに、私は廣人くんのことを何も知らない。
最初のコメントを投稿しよう!