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突然、耳元で声がした。
そして、促されるよう背中を押され、私はそのまま降車した。
(え、えっと・・・?)
振り返ると、スーツ姿の男性が、ホームの淵にしゃがみこみ、車内に落ちた私の本を人々の足元からさっと拾い上げてくれた。
「ドア、閉まりまーす!!」
そこで、電車のドアがついに閉まった。
間一髪。
冷や汗ものの状況に、私は、しゃがんだ姿勢の男性に、背後から慌てて声をかけた。
「すみません!大丈夫ですか!?」
「・・・ああ、大丈夫ですよ」
男性は立ち上がり、拾った本の汚れをささっと手で払ってくれた。
そして、こちらを向いたその顔に、私は思わず「あっ!」と大きな声を出す。
「ご、後藤さん・・・!」
その人は、企画部の後藤課長に間違いなかった。
にこりと微笑んだその顔は、いつもと同様・・・いや、いつも以上にイケメン眼鏡だったから。
「はい、これ」
差し出してくれた、カバーのかかった漫画本。
私は、驚きながらお礼を言って受け取った。
「同じ車両に有島さんがいたの見えたんだけど。声かけようと思ったら、有島さん座ったからね。距離ができて、声かけられなかったんだ」
「そ、そうだったんですか・・・」
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