秘密の約束

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カツカツカツ、と、廊下にヒールの音を鳴らして歩く。 この音を聞くのは気持ちいい。 「キャリアウーマン」って感じがするから。 「失礼します」 企画部のフロアに入ると、やたらと髪型の整った、新入社員をめがけて進む。 チャラチャラとした雰囲気の後姿に声をかけると、呼ばれた桐ケ谷くんは私の方へくるりと椅子を回転させた。 「あ、はい。なんですか、有島さん」 アイドルグループにいるような、人懐っこく、男の子なのにかわいい顔。 まだ、大学生みたいに見える。 「これ。見たけど、取引先の会社名の漢字が間違ってるわよ。『斉藤開発』じゃなくて『斎藤開発』ね。直しておいて」 そう言って、付箋を貼ったコピー用紙を指さした。 桐ケ谷くんはそれを見て、「えー」と言ってヘラヘラ笑った。 「細かいっすね」 「細かくないわよ。斎藤の『斎』と『斉』。取引先の会社名の漢字間違いは失礼よ」 「えー、同じ『斉藤』じゃないっすか」 「違うの。桐ケ谷くんだって、『桐が谷』って書かれたら嫌でしょう」 私は、手持ちのメモに『桐が谷』とさらりと書いた。 すると桐ケ谷くんはそれを見て、また「えー」と言ってヘラヘラ笑った。 「気にしないっすね 」 「・・・」 そうくるか・・・。
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