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その無感情ながらも美しい声の発信源は、先程から横たわっているこの娘に違いないだろう。
小太郎は恐る恐る娘の顔を覗き込む。
瞑っていた目が開き、その美しい茶色がかった眼が自分に向けられると同時に、小太郎は部屋の壁いっぱいまで一気に後退った。
自分は間違いなく見てはいけないモノを見てしまった。知ってはいけないコトを知ってしまった。
知ってはいけないコト……。
多数の人間に顔を目撃されながらもこの人斬りが今日まで生きながらえた最大の理由は、この人斬りが少年の顔をした……『男』だと思われている事に他ならない。
娘は小太郎から視線を外さぬまま、ゆっくりと身体を起こし、顔を向ける。
同時に、掛けてあった着物が、娘の胸の膨らみに沿っていき、寒さで勃起した乳首に僅かに引っ掛かると、そのままずれ落ちた。
開かれた瞳により微かに創られた表情を持った顔とその体の美しさに一瞬息を飲んだ小太郎だったが、すぐに現状を思い出す。
(殺される……確実に……)
深々と冷え込む冬の京都で、背にした漆喰の壁に染みが出来るほどの汗を吹き出しながら、町医者小川小太郎は身動きどころか恐怖と後悔の念が込った瞳を《美しき暗殺者》から逸らす事も出来ずにいた。
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