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マモルさんは何気に微笑む。
「なんか見ないうちに雰囲気変わったね」
「あたしですか?」
「うん」
「そかな?」
「美容師の目を見くびってもらっちゃ困るよ、倉ちゃん」
マモルさんは手を止めて鏡越しに覗き込む。
「もしかして彼氏できた?」
「……あ~…」
「待って、言わなくていいから」
指摘に口を開きかけたあたしをマモルさんは何故か止める。
あたしはそんなマモルさんに疑問顔を向けた。
「ショック受けると困るから聞かないままにする」
「……?…」
意味わからない──
何かしら意味深な言葉にもとれるけど、ここは深く追及しないほうが良さそうだ。
「緩めにかけるから短時間で終わるよ」
そう言って手を動かし始め、まるでマジシャンのようにあたしの頭の上で踊るマモルさんの指はカラフルなロッドを瞬く間に飾りつけていった。
予定外のパーマも重なり、営業時間を終えた店はスタッフ達が次々に帰っていく。
レジを締めた店長は帰る間際にあたしの側にきて、こっそり耳打ちしていった。
「狼に気をつけてね」
「……はい?」
伊達眼鏡の奥から小さくウインクして背を向けた店長に何か勘づいたのか、マモルさんが薬液の棚から顔を覗かせていた。
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