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クララとレオン
アーサーはマクレハン王国の首都グレハンガムの夜が好きだった。日中仕事に励んだ人々が大きな声で笑いながら酒を飲んでいる活気ある夜だ。アーサーは女中にこっそり作ってもらった地味な褐色のマントでその鮮やかな金髪を隠して街を探索した。
アーサーにはクラリッサという行きつけの居酒屋があった。グレハンガムを囲う外壁の大門近くに位置するその店は現役を引退した軍人たちが集まる古風な飲み屋として繁盛していて、アーサーはそこで引退軍人たちの武勇伝を聞くのが趣味だった。アーサーが店の扉を開けるとからんからんと鈴の音が鳴った。
「あらアーサ様、またお勉強を抜け出してきたの?」
店の主人であるクラリス・ガーネットがアーサーを見て言った。クラリスはサラサラとした青くて長い髪が特徴だ。そのクラリスの後ろから、同じく綺麗な青い髪をしたショートヘアの女の子が飛び出してきた。その少女、クララ・ガーネットはクラリスの一人娘だ。アーサーと同い年ということもあり、二人はあってすぐに仲良くなった。
「アーサー!久しぶりじゃない!」
クララが元気な声で言った。
「こらクララ。皇太子様に向かってそんな口聞いたらダメですよ」
クラリスがクララをやさしく注意した。
「別にいいよクラリス。クララは俺の友達だから。それにさ・・・」
アーサーが何か言いかけところで店の奥に座っていたガタイのいい男たちが大きな声でアーサーを呼んだ。
「おいぼーず!やっときたのか。今日も俺の武勇伝を聞かせてやるからこっち来いよ」
「おう!」
アーサーは大男に快活な声で返事をしてから、先ほどクラリスに言いかけたことの続きを言った。
「それにさ、酒の場で身分なんて関係ないだろ」
そう言うアーサーをみてクラリスは少しにこやかな様子で、
「9歳のお子ちゃまがお酒を飲んではダメですよ」
と言った。
「へへっ。俺は飲まねーよ。行こうぜクララ」
「うん!」
アーサーとクララは大男の席まで駆け足で向かっていった。その二人の背中を、クラリスは温かい瞳で見つめながら「もう」と息をついた。
「ははっ。将来も安泰だな、うちの国は」
クラリスの旦那で、クララの父に当たるビル・ガーネットがクラリスに向かってそう言った。
「ええ。アーサー様はきっと、立派な国王になられますよ」
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