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2.久々にハードボイルド♪
トマス・フラナガン『アデスタを吹く冷たい風』(早川書房、2015年)という短編集を読みました。
地中海沿岸にあるらしい架空の「共和国」を舞台に、「テナント少佐」という中年男性が、主人公だったり脇役だったりする短編が四つ。
少佐のシリーズ以外の短編も収録されていましたが、私の中では、このテナント少佐ものが! 断トツ!! でした。
んもー、テナント少佐!!! かっこいい!!!! ( おちついて)
巻末の解説ではこの本を、本格ミステリのファン・ハードボイルドのファン・「奇妙な味」作品のファン・歴史ミステリのファン、の四者すべてを「同時に満足させうる短編集」と紹介していました。なんかすごいなー。
たしかに、残り三篇のうち二篇は「奇妙な味」もの。最後の一篇は、ボルジア家のからんだ密室ものという、歴史ミステリ兼本格ミステリ。
そして、私の推しのテナント少佐シリーズは、すごーくハードボイルドでした。
いや、読み手によっては、本格ものと捉えるのかもしれませんが。
私にとっては、久々に読んだ、それもめっちゃいいハードボイルドでした(きっぱり)
著者は、1923年生まれのアメリカ人。
1952年に書かれた表題作『アデスタを吹く冷たい風』を含む短編集が、1961年に早川書房から翻訳・出版され、その後復刊希望アンケートで二回も一位を獲得した結果、2015年に文庫化したのがこの本です。
つまり古いお話なわけですが、どの短編も内容からは古さを感じさせません。
私のイチ押し・テナント少佐シリーズは、状況説明が省かれ、話が進むにつれ少しずつ事情が明らかにされていくスタイルで、もどかしいけどそれも魅力の一部。
そんなわけで詳しい説明は避けますが、作品の舞台はフランコ将軍時代のスペインをモデルにしているようです。
四作いずれも、第二次大戦後まもない時期、クーデターで王政を倒した「将軍」による軍事独裁政権下での、軍に関係した事件を扱っています。
これらの、事件というか犯行(違法だけど犯行とは呼べないものも含まれますが)が、どれも人間の心理の穴をついていて、なんとも鮮やかなのです。
しかも、アクロバティックなトリックはないから、納得できて読後感スッキリ。
頭脳と度胸とそこそこの権力があれば誰にでもできる犯行、ってところが、すごくいい( キュンポイントが特殊)
しかもしかも!
四作とも、まるで違う趣向で書かれてるんですよ!
ブラーボー✨
さらにかっこいいことに、謎を解くための手がかりは、種明かしパートより前に、きっちり読者に示されているのです。
(ちなみに、四作とも「エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン」に掲載されたそう。「読者への挑戦状」はついてないけど 笑)
叙述トリックっぽい作品もあるけど、手がかりはちゃんと明かされてるんだ!
なんなら、読みながらときどき、(ん?)ってなったりもするんだ!
なのに、まんまとどんでん返されて、気持ちよく「ギャー!」ってなれる素晴らしさよ 笑
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