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主任が人事課に異動してきて、一カ月が過ぎた頃だった。どうやら営業の若い女の子がこちらに異動してくることが決まったらしい。
「またまた急な異動ですね」
「なんかあったんじゃない?」
三年先輩の女性社員、城戸さんと話していると、独身男性の金田さんが会話に入ってくる。
「リクルーターとしての異動って聞きましたよ。可愛いんじゃないですか」
「本当だ、『桃園亜子』って名前から既に可愛らしいオーラが出ている」
「墨村はすぐにそういうことを言う」
平社員の私たちは呑気なものだった。人事課は若い社員の入れ替わり立ち替わりが多い。新卒のリクルーターを担当する若輩が多いせいなのだが、特に女子社員が寿退社で辞めていくのだ。先輩後輩問わず、どれだけ私が背中を見送ったことか。
「イジメるんじゃないぞ、墨村」
金田さんが私をジロリと見てくる。
「何で私にしか言わないんですか」
「お前お局に片足突っ込んでるからな」
「そういうこと言うから金田さん独身なんですよ」
「はいはい、どっちもどっち」
「どっちもどっちじゃないわ城戸さんめ! 左手の薬指からプラチナちらつかせてからに!」
今にして思えば、私は本当に脳天気だった。
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