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その日、出勤してタイムカードを通すと、私の机の横を人だかりが塞いでいた。
「おはよーございまーす」
後ろからひょっこり挨拶をしてみると、皆の視線が私の方に向く。人だかりの中心の彼女の目も。
「あ、おはようございます! 墨村さん、ですよね? この前お会いしたの覚えてますか?」
まばゆいばかりの笑顔を前にして、私の表情は凍り付く。
覚えてない訳がない。合コンの時にいた、私に向かって「あざとい」と言った、営業二年目の彼女だ。名前なんて把握すらしてなかった。
「そ、そうだねーあの時はお世話になっちゃって……」
お互い、なんの世話もしちゃいないけどとりあえず適当を言っておく。
「墨村さん、パパが褒めてましたよ。仕事できるって」
パパ……そうかこの子……システム課の部長の娘だ! 桃園部長、私と面識がないのだが。
「へぇー、同じ部署になったことないのに、褒めるとこあったのかな」
「墨村さん有名なんですよー。ねっ鑑田主任!」
桃園さんが上目遣いで振り向くまで気付かなかった。主任が彼女の後ろで微笑んでいたことに。
「確かに数回名前を聞いたことはあったね。岩窪主任のお気に入りだし」
「ねー!」
彼女の明るい声とともに始業のチャイムが鳴り、皆が慌てて席に戻って行く。
「鑑田主任は、岩窪主任のようにはいかないと思いますよ?」
すれ違いざまに、同一人物の声とは思えないような温度のない声で囁かれる。
私は確信した。彼女の異動は、偶然ではない。
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