二章

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「墨村の帰りが遅くなるだろうから送ってあげようかと思って」 私は電車通勤だ。終電が過ぎたらタクシーで帰る気だった。 「大人なんだから大丈夫ですよ」 「だったら仕事を与えてあげよう。帰りの車で俺の接待でもしてくれないか……どうも俺は皆に王子様か何かと勘違いされてるみたいで、あまり羽が伸ばせないんだよね。墨村みたいなのと喋ると、気分がほぐれるんだ」 社長子息だから迂闊にイメージを壊せないんだろうなぁと思いながら、私は主任から顔が見られないように手で覆い隠す。 笑ってしまう。そんなことの為に会社に戻ってきたんだとしたら、馬鹿じゃないの。 「あーもう……」 気が参っている時にそんなこと言われると……勘違いしそうになる。 「鑑田主任は……しょうがないですね」 鑑田主任の静かな笑い声が聞こえる。 「いい男過ぎて惚れただろ? ほら買ってきてあげたんだから肉まん食べたら資料作って。俺雑務片付けてるから」 私は彼が促すままに、少し水気が出てきた肉まんに噛り付いた。顔が上げられないから、主任がどんな顔でそれを言っているのかわからない。 こういうことするから、王子様か何かと勘違いされるんじゃないですか? とは言ってやれる程、私は素直じゃなかった。
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