二章

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二人で会社の駐車場まで歩き、主任が国産の軽自動車の前で鍵をかざす。 「乗って」 「助手席でいいですか?」 「勿論」 私はドアを開けて助手席でシートベルトを締める。 「よろしくお願いします」 「了解」 主任が勢いよくサイドブレーキを引いた。 「墨村は車持ってないの?」 「あー、免許返納したんですよ私」 「返納?! 返したの? その齢で?」 「はい。もう、運転はしないので」 「……そう」 「外車に乗ってるかと思いました」 「高いやつ?」 「そう、フェラーリとか」 主任がとんでもないとばかりに否定した。 「そんなの乗ってたら『このボンボンが』って鼻に付くじゃないか。社長一家って言うのはね、意外に金銭感覚は普通なもんだよ」 そういえば一昨日皆でラーメン食べに行ってたな、チェーン店の。 大衆居酒屋にも普通に行くし、何だかんだ庶民派だよな鑑田主任は。 「でもボンボンはボンボンですよ」 主任は「そういうところが墨村だよね」と笑い飛ばすと、急に低い声で言った。 「ボンボンという立場はとても強力な武器になるからね。乱用するんじゃなくて、いざという時に最大限有効利用するべきだというのが……俺の持論だよ」
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