二章

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次の日、出社した人事課社員全員が驚嘆の声を上げる。 「うっそ! やるヒマなくて溜まってた雑務が片付いてる!」 「本当! これもしかして墨村さん!?」 いや、墨村さんはそんな雑務やってる余裕なんて無かったよ。小人さん(かがみだしゅにん)だよ。とは言えず「いやー誰でしょうねー」と濁してみる。 「墨村さんありがとう! 自分の仕事もあったのに大変だっただろう?」 満面の笑みで御礼を言ってくれる課長に非常に面目無い。 「あぁ、いや、元々私も締め切り勘違いしてたのが悪いですし……」 「助かったよ、墨村さん」 ニコニコした主任が私の正面に立った。目配せをしてきたので私はその場で一礼する。 「いえ、恐縮です」 「優秀ですね、墨村さんは」 主任が課長の顔を見ながら言った後、自分のデスクに戻っていく。私の横を通り過ぎるとき、微かな声で主任が呟いた。 「秘密ね」 勢いよく振り向いた私には気付いている筈なのに、彼は一度もこちらを向くことなく、飄々と自分のデスクに座る。 ふざけるな……私はこういう優しさには慣れてない。そうやって人の事情も無視して揶揄ってくるせいで、ほらこんなにも、顔が熱い。
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