三章

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嶋木(しまぎ)係長も同じとこでしょ? 経理の。全然結びつかないけどねー」 そりゃあ三年前に中途で入社して破格のスピード出世を遂げてるやり手の鬼係長と私が同じ大学なんて驚天動地でしょうねわかってるんだようるさいな。 「今度さ、そこで説明会するんだけど、墨村さんOGとして僕と一緒に行くのどう?」 最近鑑田主任はリクルーターとしてあちこちの大学の説明会に飛び回っている。眉目秀麗社長子息として評判は上々らしい。そんな主任の気軽な口調に私は目を剥いた。 「え、私がですか?!」 私はあまり愛想に自信がない。ちょっと打ち解けてきた人には必ずと言っていい程「もっと怖い人かと思った」と言われるのだ。顔立ちがややキツめなことも手伝って、少なくとも後輩、それも社会人経験のない学生には親しまれない。 「いや、人事課的に問題が無ければ良いのですが……私あまり後輩ウケする感じじゃありませんし……」 それこそ見た目だけは華やかで可愛らしい桃園(ももぞの)さんの方が適任じゃないか。 「悪くないと思うよ。仕事は几帳面だし、パッと見冷静で切れ者な印象あるから、就活生憧れると思うけどね」 主任が「どうですか、課長?」と伺うと、田北(たきた)課長も「確かにいいかも」とまんざらでもなさそうだった。 「墨村さん、鑑田くんと一緒に行ってみない?」 私は田北課長には弱い。 「……い、行きます」 「頼んだよ、墨村さん」 鑑田主任の笑顔を目にして「あ、やばいかも」と思い、片方の手に爪を立てる。 ……最近彼の笑顔を見ると、仕事中なのに心が弾むのだ。
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