三章

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目を覚ませ自分。私は自分のほおを叩いた。社長令息、社長令息だよあの人は。私なんかが迂闊に手を出していい人ではない。あの人には大和撫子みたいなお嬢さんが側にいるべきなのであって、私のような一般家庭でまあまあ普通に育った女の相手はさせちゃいけない。 「良かったですね、墨村さん。鑑田主任とお仕事なんて」 ゆるいパーマが可憐に揺れる。ねじ込まれるかのようにして人事課に配属された桃園さんの笑顔は、私を除き見る人に清らかな癒しを与える。本性を知っている身としては、そのぷっくりした唇の釣り上がりが腹ただしいこと極まりない。 「良かったよ、母校に行くなんて何年振りかな」 私は苦笑いしながら無難な返答をする。 「……説明会、どうだったか後で教えてくださいね!」 桃園さんは可愛らしく小首を傾げながら言った。 「……うん」 二人きりの時は敵意どころか殺意剥き出しのくせに。仕事においてあまり不都合がないから放っているが私も温厚ではない。日々歯ぎしりをしながら彼女の態度に耐えている。
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