三章

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昼休み、自販機にコーヒーを買いにラウンジに向かう。ガラス扉の向こうは、女子社員がたむろしていた。 何の気なしに扉を引くと、彼女たちの視線が矢のように放たれる。なんだよここ貸し切り空間か何かなのかよ。 一人、ショートカットの気が強そうな女が高圧的な足音を鳴らしながら私に向かってくる。多分三〇代前半の先輩社員だ。 「墨村さん……よね?」 聞かなくても名札付けてるじゃない。 「そうですが、えーと……海山(うみやま)さん」 私は彼女の豊満な胸に付いている銀色のネームプレートを覗く。 「仲良しみたいねー、鑑田くんと」 くん付けで呼ぶということは、多分元々同じ課かどこかで働いていたのだろう。役職者にこんな顔の人はいなかった。 桃園さんを彷彿とさせる狡猾そうな笑顔で思い出す。そういえば、この人もあの時の合コンにいた人だ。 「まぁ、気が合うみたいで」 いわゆるただの友好関係であることを控えめにアピールしてみる。 すると、コーヒー缶とフロアタイルがヒステリックな音を奏でた。どうやら手遅れだったらしい。
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