三章

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私は不機嫌な足音を鳴らしながら人事課に戻っていく。 「あれ? 墨村」 鑑田主任が人事課のオフィスから出てきて私に声を掛けてきた。 「どこ()ってたの?」 「ラウンジに、コーヒー飲みに」 「足にも飲ませたんだ?」 主任は私の足を見ながら喉を鳴らす。 別に、気付いてくれなくていい。私にもプライドがある。 「そう、足も喉が渇いたとうるさくて」 「強がりだな」 鑑田主任は気安く私の頭を撫でた。その後ろに桃園さんがキョトンとした顔で立っている。 「あれぇ? 墨村さん、早かったですね」 知っているのだろうか、私が海山さん達とやり合ったことを。 「そうかな、普通じゃない?」 「桃園さん、墨村ったら足にコーヒーぶちまけて帰ってきたんだよ」 私は見逃さなかった。「桃園さん」と呼ばれた彼女が、「墨村」と呼ばれた私にマムシのような視線を向けたのを。 「……なんだか墨村さんは危なっかしいですもんね」 主任のファンのいいカモになってるし? 「……桃園さんが思ってるよりは強いよ?」 ニヤっと口角を上げて、挑発的に微笑ってみる。 早く本性を見せればいい。私がずっと黙ってると思ったら、大違いだ。
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