三章

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その日の朝、私は上機嫌だった。思い切って購入した憧れブランドのスーツ上下に袖を通して、軽い足取りで出社する。 鑑田主任が私の前を歩いていた。ピンストライプのスーツが細身の身体によく似合う。 「鑑田主任、おはようございます!」 主任がちょっと驚いた顔でこちらを振り向く。 「おはよう墨村。今日はテンション高いじゃないか」 「そうですか?」 指摘されると少し恥ずかしい。なんだか浮かれていると言われたみたいで。 「そのスーツ、見たことないな。似合ってるよ」 「本当ですか? フンパツしましたからね」 私が鼻息荒くして答えると、主任が自分の腕を私の腕の横に持ってくる。 「お揃いだ」 無邪気な顔で言うので心臓によろしくない。主任はライトグレー、私はブラックのピンストライプ。別に狙ったわけではないけれど。 「……今日はよろしくお願いします」 私は彼の顔を直視できない。 「こちらこそ、楽しみだな」 13時に会社を出て大学に向かう。ただ仕事に行くだけなのに、遠足に行く子どもみたく今から時間が待ち遠しい。
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