三章

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笑顔だが、目が全く笑ってない。海山さんと、取り巻き数人が弁当らしきものを抱えて行儀よく立っている。 「もー、忘れちゃったの墨村さん。今日一緒にお弁当食べるって言ってたじゃん」 私は飛ぶ鳥を落とす勢いで出世している嶋木係長と同じ大学を卒業するくらい頭がいいのだけど、そんなこと言ってたなんて覚えてない。 「え、珍しい墨村さん。いつもここで食べてるのに」 城戸さんが赤ウインナーを持ったまま首を傾げる。人事課の皆が同じような顔をしていた。 まずい、このままじゃ不穏な空気が流れてしまう。 「ごめんなさい、うっかりしてて。すぐ行きますね」 私は弁当を適当に片付け、お茶を持って海山さんのもとに向かう。 「墨村さんのうっかり者ー」 きゃらきゃらと笑いながら、取り巻きが私の肩を掴み、決して離そうとしなかった。
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