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四章
「あ! 墨村さん!」
私が会社の階段を降りていると、鞄を持った総務の牧瀬さんが駆け寄って来た。
「牧瀬さん、今から帰り?」
「うん、ねぇ墨村さん大丈夫だった? 海山さんにイジメの標的にされたって噂あったけど」
あれから海山さんが私に顔を見せることはなくなった。……多分、二度と同じことはしないだろう。
「あぁ……もう大丈夫。仮にもう一度あった所で、泣き寝入りもしてやらんし」
「やだー墨村さんこわーい」
牧瀬さんは明るい笑い声を響かせた。美人なのにこういうところは気取ってなくて思い切りがいい。
そんな彼女が、周囲の様子を伺うと声のトーンを落として耳打ちする。
「でもさ、多分鑑田主任のことが原因でしょ? ごめんねあの時何も考えずに誘って」
「牧瀬さんのせいじゃないって。いいよ、あの人私が落とすから」
「はぁっ!?」
牧瀬さんの口から渾身の一撃のような叫声が放たれる。彼女は私を「子猫かと思ったらライオンの子供でした」みたいな目で見上げていた。
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