941人が本棚に入れています
本棚に追加
それから数日、なんか鑑田主任がよそよそしい。
まず、朝出勤して挨拶をして、仕事中は必要最低限しか声掛けてくれなくて、帰りは「お疲れ様」と言って逃げるように去っていく。
引いた? 引いたのか? 話掛けようとしたら笑顔と言う名のバリケードを張ってくる。だっていつもの笑顔と違う。口元に微笑を浮かべてるけれど、目がこっちを見ていない。
「墨村、ちょっと鑑田主任にこれ持っていって来て」
人の気も知らない金田さんが私にプリントの束を投げてくる。
「……わかりました」
仕事は断らない主義だ。気乗りはしないが私はプリントを持って主任のデスクに向かう。
主任はパソコンの画面に集中しながらキーボードを叩いていた。後ろに立ったのだがこちらを向く気配がない。
「あの、鑑田主任」
「……何?」
口調は穏やかだ。けれど、こっちを見ない。
……別に仕事中に余計なちょっかい掛けないんだから、そんな身構えたような対応しないでいただきたい。
「金田さんから、預かり物です」
腹が立ってしまい、ほんの少し言葉に棘が立ってしまった。仕事中なのに我ながら情け無い。
「ん、ありがとう」
主任がプリントに手を伸ばす。
「?!」
主任の手と私の手が少し当たってしまい、主任は脊髄反射のように手を離してしまった。
「ご、ごめん!」
目が落ち着きなく動き回っているし、手もばらばらばらばらイソギンチャクのような動きをしている。
「……こっち見ないからですよ」
私はプリントを主任のキーボードの上に置いて、自分の席にどっかりと座る。
「墨村、機嫌悪い?」
金田さんが申し訳なさそうに顔を覗いてくる。
「生理ですが」
大体そう言って置けば、男はそれ以上追求してこない。
最初のコメントを投稿しよう!