四章

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それから数日、なんか鑑田主任がよそよそしい。 まず、朝出勤して挨拶をして、仕事中は必要最低限しか声掛けてくれなくて、帰りは「お疲れ様」と言って逃げるように去っていく。 引いた? 引いたのか? 話掛けようとしたら笑顔と言う名のバリケードを張ってくる。だっていつもの笑顔と違う。口元に微笑を浮かべてるけれど、目がこっちを見ていない。 「墨村、ちょっと鑑田主任にこれ持っていって来て」 人の気も知らない金田(かなだ)さんが私にプリントの束を投げてくる。 「……わかりました」 仕事は断らない主義だ。気乗りはしないが私はプリントを持って主任のデスクに向かう。 主任はパソコンの画面に集中しながらキーボードを叩いていた。後ろに立ったのだがこちらを向く気配がない。 「あの、鑑田主任」 「……何?」 口調は穏やかだ。けれど、こっちを見ない。 ……別に仕事中に余計なちょっかい掛けないんだから、そんな身構えたような対応しないでいただきたい。 「金田さんから、預かり物です」 腹が立ってしまい、ほんの少し言葉に棘が立ってしまった。仕事中なのに我ながら情け無い。 「ん、ありがとう」 主任がプリントに手を伸ばす。 「?!」 主任の手と私の手が少し当たってしまい、主任は脊髄反射のように手を離してしまった。 「ご、ごめん!」 目が落ち着きなく動き回っているし、手もばらばらばらばらイソギンチャクのような動きをしている。 「……こっち見ないからですよ」 私はプリントを主任のキーボードの上に置いて、自分の席にどっかりと座る。 「墨村、機嫌悪い?」 金田さんが申し訳なさそうに顔を覗いてくる。 「生理ですが」 大体そう言って置けば、男はそれ以上追求してこない。
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