四章

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ある日会社のエレベーターに乗った日のことだった。 三階で昇ってくるエレベーターを待っていた私は、扉が開いたと同時に一瞬たじろいでしまう。 程よく鼻を掠める煙草の薫り。空間に充満する威圧感。鷹のように鋭い眼光。 嶋木(しまぎ)係長だ。 「失礼します」 一礼してエレベーターに乗り込むが、係長は腕を組んで立ったまま会釈すらしない。 私は気を遣いながら、用事がある十階のボタンを押す。もうその動作にすら達成感を感じる。 ものすごく仕事ができるらしいが、30半ばにも関わらず、課長たち上司が泡を吹きそうになるくらい完璧かつ恐ろしいらしい。経理の知り合いから、「上司殺しの嶋木」という異名が付いていると聞いた。 もう、針のむしろにいる気分だ。一分一秒でも早くこの二人きりなる状態から抜け出したい。 と思っていたら、突如係長が視界から消えた。
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