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「おぅ?」
思わず間抜けな声を出した私は、目線を下に遣る。
縮んだ係長が、滝の汗を垂らしながら這いつくばっていた。よく見たら、顔が真っ青だ。
「え? か、係長!? ぎゃーっ!」
「大丈夫ですか」の一言も言えずその場でアタフタしていると、ちょうど五階で停止したエレベーターの扉の向こうで鑑田主任が立っている。
主任が川に浮かんでいる藁に見えた。
「鑑田主任! 嶋木係長が倒れました!」
係長の体調も顧みず叫ぶ私に反して、主任はのんびりした声で言った。
「嶋木係長が? あ、本当だ顔色が最悪じゃないか早退した方がいいですよ」
係長は床で自分を支えながら声を絞り出す。
「……いらん……俺を経理課まで連れて行け……」
息も絶え絶えなのに何の仕事ができる気なんだろうか。主任は呆れ顔で係長の身体をひょいと支えた。
「何言ってるの、自分で動けない人に仕事させるような会社じゃないようちは。墨村、経理に行って係長が早退するって伝えてくれる? そのあと医務室まで来て」
前世は鬼だと言われる嶋木係長なのにそんな飄々と対応できるなんて、さすが社長子息だな。
「は、はい、わかりました」
「華生さん呼ぶからね、一彬さん」
「止めろ……」
年下とはいえ社長の息子にそんな口の利き方するのも珍しいなと思いながら、私は経理課に急いだ。
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