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三章
「ねぇ、墨村さんってそこの大学出身だったっけ?」
きっかけは鑑田主任の一言だった。いつものようにパソコンを睨んでいた私は驚いて顔を上げる。
「え? は、はいそうですが」
偶然だが、私の母校と現在の会社はご近所だ。三つ隣の席にいる先輩が立ち上がる。
「えっうそっ! 墨村さん、頭良かったの!?」
この会社に入社して、何回言われたことか。もう怒るのも面倒くさい。
「フランス語専攻だっけ?」
城戸さんが横から話に入ってくる。
「そうですよ。今あんまり仕事に役立ってないけど」
「フランス行ったことある?」
「あぁ、一カ月ほどホームステイしましたね」
「ふーん、やっぱり服は十着しか持ってないの?」
「人によりますよ。私のステイ先の奥さんは衣装持ちだった」
「へぇー、なんか墨村さんが急に別世界の人に見える……」
どういう意味だ。
「兄妹揃ってエリートなんですよ。墨村のくせに生意気ですよねー」
金田がニヤケ顔で言う。目、潰してやろうか。
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