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一章
「墨村さん! こないだ渡した案件はどうなってる?」
「あぁ、経理に連絡取ってますが、まだ返事は来てないです」
「もっかい連絡取って! 返事遅い!」
「わかりましたー」
入社して五年経つが、学生時代に必死で内定をもぎ取った誰もが知ってる大手の会社の中で、自称だが私は部署内でそこそこの信頼を得ている。出世街道に乗ってるかというとそうでもないのだが、少々スキルの必要な雑務を頼みやすい便利なポジションをキープしている。
おじさん上司には可愛がられているが、同期の男やらと付き合おうかという展開は今まで全くなかった。
同期の女子は飲み会だかなんだかで盛り上がって数組出来上がってるというのを時々聞く。時々彼女らに「墨村さんはなんかイイ話ないのー?」と聞かれ、ヤケクソで「じゃあ紹介してよ」と言い返し「わかったー、声かけとくー」と言われた後、本当に声をかけてくれたことはない。
いや、二、三回あった。けれどいきなり太もも撫でてきたり、BL読むって言ったら引いたりと、あんまりいい男じゃなかったから、二回めのデートが訪れたことがない。
「墨村さんは恋愛恋愛って感じの人じゃないですよねー」と言ったのは先日結婚が決まった後輩女子だったか。
いや、私だって別に恋愛したくない訳じゃないよとけっこう真顔で言っても、不本意ながら取り合ってもらえた試しがない。
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