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「しかし、ここには何の証拠もないようね」
静香が部屋を見渡す。埃すらない部屋に、詩織の姉の痕跡は何一つない。もっとも、彼女がこの部屋に泊まったかは定かでないが。ここになければ、隣部屋にあるだろうか。とにかく、他にあるものといえば、机の上に置かれた三楽館のパンフレットくらいだろうか。
「どれどれ?」
静香が畳に胡坐をかき、パンフレットを開く。そこには温泉について書いてあった。
──秘湯中の秘湯。入るだけで傷はみるみる塞がり、心もたちまち癒される。その昔、戦で矢を受けた殿様が傷をいやしたという伝承があります──
「それは……パンフレットですか?」
詩織が静香の後ろから覗き込む。
「ええ。やっぱり秘湯ってヤツなのね」
静香は、健人の言葉を思い出しながらパンフレットをめくる。そこには綺麗な湯船の写真と、それぞれに関する説明が書かれていた。
──当館は3種類の湯船をご用意しており、どなたでも効果が得られます──
──赤の湯では、身体のコリや疲れを取り除き、たちまち丈夫になります──
──青の湯に入ると、頭と心が澄み渡り、物事がはかどるようになります──
──黒の湯に入ると、肌の潤いを取り戻し、さらに美しくなります──
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