依頼人、日向詩織

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「そろそろ決めないと、週末の暑中旅行に間に合わないわよ」  静香が壁のカレンダーへ目配せした。金曜日から日曜日までの三日間が丸く囲まれている。しかし少人数かつ低予算では、なかなか王道どころは狙えない。現に静香は見つけられていなかった。 「所長……! それが、いいところ見つけたんですよ!」  健人が待ってましたと言わんばかりに声を上げる。静香も「へぇ……」と僅かな期待を寄せた。 「三楽館(みらくかん)っていう温泉宿なんですけど、この前の依頼帰りに見つけたんですよ!」 「この前のって、山菜取りの?」 「はい、山菜取りの」  山のお婆さんからの、日の出から日の入りまで山で山菜を取るという、簡単で重労働な依頼だった。肉体労働ということで、健人だけがボロい社用の乗用車で出向き、帰ってきたのは夜遅かった。その帰り道に山の麓に立て看板があるのを見つけたそうだ。 「どんなところなの?」  静香が尋ねると、健人は眉をひそめる。 「それが、調べても出てこないんですよねー? 秘湯中の秘湯、ってやつなんじゃないですか?」 「高いんじゃないでしょうね?」 「こういうところは、秘湯過ぎて逆に安かったりするんですよ」 (料金はともかく、温泉宿か……)  静香もその点には興味津々だった。それに、この暑さの中、わざわざ自分で探し直すのも面倒だ。 「いいじゃない、温泉。そこにしましょうか」 「さっそく、週末が待ち遠しいですね!」  健人が子犬のように笑顔ではしゃぐ。静香も希望が見えたおかげで、少し体力が戻った気がする。  そのとき、事務所の扉が開いた。
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