一日が毎日

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 山田姉妹と別れあたし達は教室に向かった。教室と言っても机は無く椅子しか無い。それどころか教科書もノートも黒板すらもない。あるのは教壇にマイクだけなのだ。では、学校で何を学ぶのか。 「では、本日もものみやぐらの研究から始めましょう」 教壇の上に立ったのは「教師」では無く「長老」だった。長老とは先に説明した「会衆」を指導者的立場にいる男子の事である。ものみやぐらとはジノヴァの証人が発行する小冊子の名前である。悪魔が攻めてくるのを監視するための高い櫓が名前の由来らしいが悪魔がいなくなったこの楽園ではこの名前はもう意味がないだろうと思われている。 「それでは賛美歌の方を、賛美歌65番、ジノヴァ我らに祝福を」 長老がこう言うと皆は椅子の横に置いてあった鞄より茶色いハードカバーの小さな本を出した。そして賛美歌65番の頁を開く。歌詞と楽譜に髭面の男が笑顔で歌う絵が描かれていた。  教壇の横にあったラジカセの電源を入れる。聞き慣れた賛美歌65番のイントロが流れてきた。あたし達はジノヴァ神様への感謝の為にそれを歌う。この世界では歌は「ジノヴァ神様に対する賛美」の為に歌うものであって自分が楽しむ為に歌う事は禁じられている。昔は「音楽」と言って人は皆音を楽しんでいたらしいがジノヴァ神様への賛美では無く「人が楽しむもの」であった為に悪魔が人を堕落させるための手段に成り下がっていた時代があったらしい。  賛美歌が終わると「ものみやぐら」の研究が開始された。ものみやぐらは月に2回発行される小冊子で集会での討議のテキストとして使用されている。 「本日のものみやぐらは「同性愛の害悪」について」 長老はものみやぐらを開きそこに書かれていた「同性愛が何故いけないか」と言うことについて語りだした。
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