霧の向こうにて

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霧の向こうにて

 私は不機嫌そうに車のアクセルを吹かしていた。峠の山道の道路を行けども行けども対向車は来ない。いくら仕事とは言えこんなクソ田舎に行く羽目になるとは。これならこの仕事を引き受けるのでは無かったと激しく後悔した。  何故私がこんな田舎くんだりまで来ているかとと言うと「杉沢村」を探しに行く仕事を頼まれたからだ。 数日前の話をしよう。フリーライターである私は実話系の雑誌「週刊フッターズ」の編集長に呼ばれた。もう平成も終わりかけで嫌煙の嵐が吹く世とは思えないぐらいに紫煙の雲が出来ているような編集部に行くのは服にも肺にも正直よろしくはない。そう言う私も敬愛する小説家に影響されてタール28のきつい「ヤツ」を吸っている。そんな私からすれば編集部に浮いている雲の元になる煙草なぞ子供が舐める飴ちゃんと変わらない。 「2000年頃ぐらいだっけ? 杉沢村って話題になったの」 飴ちゃんを咥えながら編集長が私に言った。いきなり何を言っているのだろう、目の前にあるパソコンは飾りなのだろうか。 「はい、インターネットの黎明期に流行った都市伝説ですね。2000年って言うとまだ月15時間で数千円とかかかる時代でしたね」 「そうそう、懐かしいなぁ。FAXみたいな変な音がするんだよなぁ」 それから4年ほどで24時間繋ぎっぱなしで数千円と言うブロードバンドの時代になるのだから科学の発展は凄いものである。 「で、その杉沢村がどうかしましたか」 編集長は煙草をゴリラの手のひらを模した灰皿に押し付けて火を消した。昔は本物のゴリラの手のひらを灰皿にしていたと言うことを知っていると極めて趣味の悪い灰皿と言える。窓から入る日が当たるとガラスのように光る事から模造品だと言うことが分かる。 「ウチの雑誌のコーナーに元ヤクザの親分さんのルポあるの知ってるだろ?」 「はぁ」 週刊フッターズには人気のコーナーがある。その名も「元、極道王(キング)が語る!」そのままの意味で元、極道の親分さんが書く一コーナーだ。戦後の闇市の博徒としての成り上がりから刑務所での勤めから極道の日常を赤裸々に書くので人気のコーナーとなっている。
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