霧の向こうにて

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 このような訳で私は青森まで来ていた。インターネットで杉沢村とされる場所を順々に訪ねていた。「命の保証はしない」と言う看板があり、朽ちた鳥居があり、髑髏の岩があり、未だに血痕の残る廃墟、こんな条件がある場所なんかある訳がない。いくつか揃っている場所は見つかるものの、そこは既に先人が辿った道。杉沢村では無かった。これらの場所を訪ねた辺りで空きページが埋まるぐらい書いている事に気がついた。この旨を編集長に電話してみた所「これらの事を書いてくれればいいよ」と言われたのでそのまま帰る事にした。今はその帰りの道中である。 「本当に対向車来ないなぁ」 私はこんな事を呟きながら上にある案内標識をチラリと見た。そこにあったものは我が目を疑うぐらいに衝撃的なものであった。 「あれが有名なキリストの墓かぁ」 車を走らせているうちにキリストの墓があるとされる村の近辺に辿り着いていた。  その時、私はとある「奇説」を思い出した。杉沢村とキリストの墓は密接な関係があると言う都市伝説があると言った感じの奇説だ。その奇説でページの隅でも埋めておくかと思い私はキリストの墓に行くことにした。その奇説も散々テレビで放送されているので「肉眼で確認」と言う結果に終わった。ここがキリストの墓と言うことを完全に否定するわけでは無いが「村おこしの為」に話に背鰭尾鰭を付けてでっち上げたよう印象しか持てなかった。近辺住人に聞き込みをしても「そういう事にしておいた方がいい」と言った感じであった。現にこのおかげでそこそこ観光客も来るし村おこしとしては成功だろう。この様な事を纏めているうちに「青森の観光案内をしてる訳じゃないんだけどな」と、気付きここに来たことは忘れることにした。  駐車場に向かう途中、私は煙草を吹かした、濃い煙と葉に混じったバニラの香りが肺に入る。そして、鼻からふぅ~と煙を出した。すると、辺りがいつの間にか濃い霧に包まれている事に気がついた。
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