霧の向こうにて

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「全く、あのレンタカーフォグランプあるんだろうか」 私はレンタカーにフォグランプが付いているかどうかを心配した。駅前で適当に借りてきたものだったのでこの辺りの事は全く気にしていなかったのだが、ここまで霧が濃くなると気になってくると言うものである。挙句の果てには辺りが全く見えなくなってしまった。 「おかしい」 いくら歩き続けても霧が晴れないし、車にも辿り着けない。道を歩いていて草を踏む感覚もあるのに下を見ても草は全く見えない、あるのは霧ばかりだ。霧を払うように歩いて数十分後、霧が晴れた。霧が晴れて見えたのは野原であった。 「あれ? 青森にこんな所あったかな」 キリストの墓にある駐車場に向かっていた筈なのに何故にこんな野原に出ているのだろうか。霧のせいで道を間違えたと思い道を引き返すがあるのは野原である。それに小春日和のように温かい。行きの道では茶色い雌のカマキリが斧を構えて威嚇しているのを見るぐらいには肌寒かったのにどうなっているのだろうか。いくら地球温暖化が叫ばれているとは言えこれは何か変だ。  私はスマートフォンで編集部に電話をかけてみた。だが、うんともすんとも言わない。発信中のコール音すら鳴らないのだ。いくら青森だからと言ってこんな所で圏外になるわけはない。画面上部の電波の数を見ても5本、LTEの表示もある。Wi-Fiスポットはさすがに無いのか青海波文を思わせるマークは鳴りを潜めていた。  私は暫く野原を歩いてみた。野原には名前は知っているのだが名前がサッと出てこない花が咲き乱れていた。暫く歩いていると大きな湖が見えてきた。 「あれが十和田湖か」
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