プロローグ

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「ようこそ、帝国会館へ! 私が長老の物見(ものみ)です」 長老? 絵本で見たおヒゲのおじいさんかな? と、思ったがこんなに穏やかなものでは無いと知ったのはこれから程なく後であった。 「まさかすぐにお見えになるとは」 「ええ、そちら様の桑原さんの奉仕に感銘を受けまして」 「これは素晴らしい! これでは聖書研究もお決めに?」 「はい、週に一回土曜日の午前中に桑原さんにお願い致しました」 「あなたは素晴らしい人です」 これだけ言うと長老物見は多く並ぶ椅子の前方にあった演壇の隅にある音響設備をいじり始めた。マイクの音量の調整でもしていたのだろうか。 それからも歓迎の嵐は止まなかった。今にして考えれば初めてきたばかりの新人に対してはこうやって歓迎しろとの教育がされていただけだった。それを知ったのは数年後であった。  押しよせる人の波の流れが落ち着いたところで演壇の上に先程の長老物見が登壇した。その瞬間に回りに集まっていた人たちは一斉に自分の席に着いた。 「本日もお忙しい中帝国会館に足をお運び頂きありがとうございます、我らがお父様、ジノヴァ神様さまもお喜びになられています」 この瞬間、一斉に拍手が入る。2人は遅れながらも拍手を行った。 「それではジノヴァ神様への賛美歌を。本日は60番、ジノヴァへの感謝」 それを聞くと同時に回りの人たちは茶色いハードカバー小さな本を出した。賛美歌が書かれた本であった。母親もそれをみて60番、ジノヴァへの感謝のページを開く。ここにいる皆が一斉に賛美歌を歌う。何を歌えばいいか分からずに口をぽかんと開けてぼーっとしていると自分たちの席の隣にいた優しそうなお姉さんが笑顔で茶色の本をこちらに出した。だが、文字が読めなかった…… それを察した優しそうなお姉さんは「後で一緒に覚えようね」と、歌の途中なのに耳打ちをしてくれた。  
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