プロローグ

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 とにかく何もかもが抑圧される毎日であった為に中学3年生になった時には自殺も考える程であったがそれすらも「自殺は大罪! 死を決めるのはジノヴァ神様! あなたが決めることではない!」と言った理論を聖書と小冊子から引用された後に鞭打ちをされ「死にたい」と言う気持ちすらも痛みで捻じ曲げられてしまうのだった。こんな精神的にボロボロになった状態に母親は更に追い打ちをかけるように「いい加減に洗礼(バプテスマ)を受けなさい!」と言う。ジノヴァの証人において洗礼は人間を辞めてジノヴァ神様の使徒となれという意味だった。実際に人間を辞めることは出来ないがこの宗教においてはここからが使徒として生きるスタートラインなのだ。母親の手前拒否すら許されなかった。  洗礼の儀式は「大会」と呼ばれるジノヴァの証人が集まる大規模な集会で行われた。ただ、ありがたい水に身を沈めるだけの簡単な儀式だ。その水は基本使い回しの為に何人もの人間が洗礼で使用済みなせいか体毛や脂がぷかぷかと浮いている極めて汚い水であった。 「うわ」 ジノヴァの証人皆が見守る中、全身を汚水に浸した。お湯を使わずに水を使っている為に辛いものがあった。そのすぐ脇で母親が見守っていた、我が子が人間を辞めてジノヴァ神様の使徒になることは極めて嬉しいのか歓喜の涙を流していた。 「ああ、もう人間を辞めてしまったのか」 そう心の中で独り言を言いながら汚水から出ると同時に決めた事があった。 「ジノヴァ神様のために生きるしか無い…… 諦めよう」と。
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