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「お前に頼みたいことがある。」 「なんなりと。」 「姫を守って欲しいのだ。私はもう先がない。」 道化師は半分だけ驚きました。残り半分は、ああやっぱり、と思いました。 月に照らされた王様の顔は、医者ではない道化師が見ても死の影が映っていました。 道化師は跪き、いつものおどけた様子を消して王様を見上げました。 「王様にお話申し上げます。姫様がお生まれになったとき、私は10才でした。 父に連れられ姫様の遊び相手としてお城に上がり、父の亡き後は父と同じ道化師になり、王様と姫様にお仕えして参りました。 お二人への忠誠は誰にも負けません。 ですが王様。私はただの道化師。 私ごときが、姫様を守るなど出来ますでしょうか。この腕はお手玉は出来ても、剣の一突きも出来ず、弓矢の一本も引けませぬ」 道化師の話を目をつむって聞いていた王様はゆっくりと手を枕元に差しこみました。 「確かにお前の腕は剣も振るえず弓も引けない。だが本は持てるであろう。」 そう言って一冊の本を道化に差し出しました。 道化師は恭しく受け取り、表紙を眺めました。     
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